まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

【書評】ネイチャーガイド 日本の水生昆虫

中島淳・林成多・石田和男・北野忠・吉富博之(2020)ネイチャーガイド日本の水生昆虫.351 pp., 文一総合出版.ISBN 978-4-8299-8411-6
Nakajima, J., M. Hayashi, K. Ishida, T. Kitano & H. Yoshitomi (2020) Aquatic Coleoptera and Hemiptera of Japan. 351 pp., Bun-ichi Sogo Shuppan, Tokyo. (In Japanese.) ISBN 978-4-8299-8411-6

図鑑という書籍に毎年かなりの金額をつぎ込んでいるので偉そうなことを言ってもよいだろう。図鑑というカテゴリーの書籍は多種多様だが、やはり王道は生きもののあるグループに特化した、種がたくさん掲載されている類のものだと思う。たくさんの図鑑が毎年出ていて、出版されて手に取るたびに毎回ウキウキしてしまう。一方で、残念な図鑑もあったりする。ネットの情報を繋ぎ合わせただけのようなものであったり、網羅的ではなく図鑑としてまとめた意図が判らないものだったり。私は図鑑マニアとして、著者が全力で殴りかかってくるような、図鑑で殴られ気絶するような、そんな1冊に出会いたいのだ。

これまで出会った図鑑の中で、1番を選ぶとしたら「アリの巣の生きもの図鑑」だろう。この本は衝撃であった。今でも時々時間を忘れて眺めてしまうほどだ。ちなみに私は自分のお勧め本は何冊か買って持っていない人に配る癖がある。この本は何冊も買ったけど今手元には1冊しかない。

今回の「ネイチャーガイド日本の水生昆虫」は、日本の水生甲虫類と水生半翅類の現段階での決定版である。2019年段階のほぼ全種が掲載されている。2019年に記載されたり日本初記録されたりした種も掲載されている。著者らの全力で殴りかかってくる、そんな気迫を体感して欲しい。そしてぜひフィールドに出て自分でこの本に出ている虫たちに出会って欲しい。

昆虫図鑑は夏に出さないと売れない、という鉄則があると聞いたことがある。確かにそうかも知れない。でもこの本は禁を犯して2月の出版である。それはなぜか?

この時期に出版がずれ込んでしまったという大人の事情はこの際無視するとして、実はこの時期こそ水生昆虫の時期でもあるのだ。渓流に生息するヒメドロムシはこの時期でも生息しているし(一部は夏にしか出現しない)、ダルマガムシの仲間には晩秋から早春にしか成虫が出現しない種もいる。つい最近、生態が解明された絶滅危惧種のセスジガムシも冬季に成虫が出現し夏は夏眠しているようだ。

小春日和の少し暖かい日を選んで長靴と金魚網を持って近くの小川に出かけてみよう。低山地を流れる水深が浅い、砂や礫の川底の河川が良い。下流に金魚網を置きその上流側30㎝位のところをガサガサやったあとに金魚網を引き揚げてみるとネットに長い脚で捕まっているヒメドロムシの仲間に出会えるかも知れない。もし流れの中に頭だけ出ているような石や岩があれば、その石の表面の水面との境目あたりの窪みを探すと、セスジダルマガムシが見つかるかも知れない。河川脇の細流で少し湿った程度のところの落ち葉をひっくり返してみると、ラッキーならばシコクダルマガムシの仲間が見つかるかも知れない。この仲間は各地で種分化しているので、もしかすると新種かも知れない。。。

私が水生昆虫に目覚めたのは、1994年2月25日。小雪が降る中、手がかじかむのを我慢しながら冷たい小川に手を突っ込み、初めて採集したヒメドロムシはとても輝いて見え感動した。今でもあの時のときめきは忘れられない。

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