まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

【書評】 ヒグマとの戦い ある老狩人の手記

「ヒグマとの戦い ある老狩人の手記」 西村武重 ヤマケイ文庫

偶然手にして読了。良かった。

大正から昭和初期に北海道を駆け巡り、狩猟などを通して見たその当時の北海道の自然や文化の様子が描かれている。ちょうどゴールデンカムイ直後くらいの話だろう。標津や和寒周辺などでは細かい地名が出てくるが、行ったことあるところや現存する地名も出てきて嬉しくなる。特に標津は仕事で良く通っていただけに今の環境や立地を思い浮かべながら読んでいくととても面白かった。いろんな逸話がゴールデンカムイに出てくる話に似ていて(例えば3頭のヒグマの話とかワシ猟の話とか)参考にしたのかと思ってしまうほど。著者は博識で、多くの木々や山草、野生生物、鉱物などが登場し楽しい。いくつかは古い呼び名で解らなかった。キネズミって何?と思ったがどうもエゾリスのようだ。

標津や根室などの道東での活躍が多く書かれていたが、当時は手付かずの自然に猟場としては最高だったとのこと。でも描かれる環境と今の環境ではだいぶん違う。当時はまだカワウソが現存していたようだが少なくなっているようだ。あとエゾシカはほとんど登場しない(少なかった時代)。ヒグマは嫌ってほど多く身近な存在だったようだ。今も道東は自然環境が残されていると思っているが、その当時とは異質なものになっている。かといってその当時も人間の経済活動の影響は受けているしその当時の環境に戻すことはできないしそれがベストとも限らないだろう。こうして昔の自然環境の状況がどうだったかということが語り継がれることこそが重要なのだと思う。

巻末にある服部による解説はとても納得できる。