まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

南アフリカのツリアブの1新種

Marshall, SA & NL Evenhuis (2015) New species without dead bodies: a case for photobased descriptions, illustrated by a striking new species of Marleyimyia Hesse (Diptera, Bombyliidae) from South Africa. ZooKeys 525: 117–127.
南アフリカからツリアブの1新種を記載した論文。タイトルにあるように標本なしで写真を基に記載されている。イントロではその言い訳というか最近の流れについて長々と書かれていて、記載部分は2個体分の複数の写真に基づいて書かれているようだ。写真から読み取り可能な形質については丁寧に書かれている印象。今回のツリアブは顕著な種であったことから写真ベースでの記載に踏み切ったようだ。
で、私の感想としては、良くないなと思った。
ICZN第4版とその追補により、絶滅危惧種などの場合、写真などの生息根拠により記載を行うことが認められた。確かに大型哺乳類では捕獲するデメリットが大きくそのようなケースも考えられると思うし実際に稀少なサルではそのような記載も行われた。しかし今回のツリアブは別に絶滅危惧ではないようだし、採ろうと思えば標本も採ることは可能だと思う。この論文がきっかけになって写真ベースでの記載が横行すると、写真写りにより違うように見えるものが記載されたり(非意図的間違い)、デジタル加工されたものが記載されたり(意図的偽証)という問題が起こりうるし、一度起こってしまうとそれを止めるすべがないような気がする。冗談半分で、ネッシーとかビックフットとか記載されてしまったら、動物分類学者はやる気が失せてしまうのではなかろうか。また、非意図的であっても写真写りが変だという理由で既知種のシノニムだとか判断を下すことは困難なような気がする。
記載に用いられた写真ファイルの保管はどのようになっているのだろうか?模式標本と同じように公的機関での保管とそこにアクセスできる状態が望ましいと思うが、きっと決まりはないはず。
第4版とその追補によりデジタル出版物での記載も条件さえ満たせば認められてしまうようになり、このことは査読なしのプレデタージャーナルに掲載された論文も記載として認められてしまうことになる。ということは悪意を持って記載することだって簡単に出来てしまうということになる。考えただけでも恐ろしい。
ということで、問題にならないうちに命名規約を改定して欲しい。