まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

【書評】シカの脅威と森の未来—シカ柵による植生保全の有効性と限界

「シカの脅威と森の未来—シカ柵による植生保全の有効性と限界」前迫ゆり・高槻成紀(編)
私はシカ柵が嫌いだ。今年はシカ柵により痛ましい事故もおきたが、それ以上に、囲い込みによる自然と人間との乖離間が半端なく、人間の生きるゾーンと(シカを含めた)自然環境ゾーンと区別されているようで嫌なのだ。最近は道路へのシカの飛び出し防止柵がいたるところに張り巡らされていて道路から森林に入るにも一苦労だったり、河川伝いに人家周辺にシカが入り込まないように河川沿いにシカ柵が張り巡らされていて河川内に降りるにも柵を潜れそうなところを探さなければならなかったりと、たいへんな思いをさせられることも多い。本書で扱われているシカ柵は、植生の保全目的のものが多いので設置は仕方ないところであるが、本当ならないほうが良い。それはこの本の中のどの著者も同じように考えているようだ。
本書を読み、勉強になったことが2つあった。1つは単にシカ柵を設置しても植生の成立過程や性質により、基の植生が成立するとは限らない点。もう1つは、シカの移動経路として大規模林道等が使われており、その法面緑化がシカの移動期の主要な餌場となっていて、そのような開発行為がシカの増えすぎを助長している可能性がある点。後者は何となくそうかな、と感じていただけに、やっぱりそうだったのかとすごく納得させられた。
地域ごとの今まさに動いている著者らの報告はとても勉強になる。お勧め本。
余談だけど、ショッキングな写真も多かったが、加藤真「生命は細部に宿りたまう――ミクロハビタットの小宇宙」に出ていた写真が、1987年と2003年の全く同じ構図で対比されていたので、こちらの方が思いっきり殴られたようにインパクトが強かった。