まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

【書評】チョウが語る自然史―南九州・琉球をめぐって―

福田晴夫(2020)チョウが語る自然史―南九州・琉球をめぐって―.322pp., 南方新社

指導教員の有田先生から、「福田晴夫さんと高橋真弓さんはすごい人なんだ」と学生の頃に聞いた。どういう場面でそういう話になったのか忘れてしまったが、あまり人を褒めない先生がそうやって褒めちぎっていたのでとても印象に残り、それ以来お二人の著作を見るたびに積極的に読むようにしている。お二人には学会でお顔を拝見する機会があり、スターに出会ったような気分になりとりあえず挨拶だけさせてもらったことがある。お二人とも優しそうな方だった。

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この本はタイトルだけ見るとチョウの生物地理的な話がまとめられているだけに思える。確かに第1部は鹿児島県を中心に、第2章は南西諸島を中心にチョウの生物地理的な話になっている。元チョウ屋としては楽しめる内容だが、チョウを知らない人にとっては難解かも知れない。でもチョウ以外の昆虫の話や魚などの話題も出てきて著者の博識ぶりが判るし、最近の論文を引用していたりして現在でも知識をアップデートしていることが読み取れる。地史や生物地理学的な話も平易な文章で書かれており、利用価値が高い。著者はすでに80歳を超えているはずだが、いまでもこうやってアウトプットもインプットもできているのだろう。すごい。知識や情報をどうやって整理しているのか聞いてみたい。

第3章は思い出話も含め、感じていること考えていることを書いている。ここは長年の経験を基に書かれているので本当に納得することも多く、ときおり目頭が熱くなる文章もある。「学校教育への期待と願い」というところでは、大学への希望として下記のように書かれている。

”高校時代に”受験生物学”を学んで入って来た学生たちに、フィールドも入れたほんとの生物学、環境科学を教えて欲しい。これも大事な地元への還元であろう。理科系、自然科学系の学生には、卒業論文の他に、地元の生物に関する新知見、情報の「短報」を何かの雑誌に、少なくとも一つは投稿して印刷物にすることを加えて欲しい。短報の原稿が書ける卒業生を歓迎する。”

強く同意。月刊むしだろうが、きちんとした短報を書くのって大変だしいろいろなトレーニングになる。それを地元の材料で行って還元するというのは、確かに必要な視点だと思う。地に足の着いたナチュラリストを大学で養成することは、これから重要になってくるだろう。

この本は、本当にお勧め。ぜひ手に取って読んで欲しい。