まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

【書評】日本語の科学が世界を変える

松尾義之「日本語の科学が世界を変える」 (筑摩選書)
土曜日の移動のお供として往復で読了。とても良い本だった。日本の研究者・科学びいきな面はあると思うが、とにかく勇気づけられる内容。書かれていることは納得させられることが多い。研究者、大学院生にお奨め。
いくつか自分の専門分野と照らし合わせて考えたことがある。
まず、動物の記載分類に関しても、日本は他国に比べ有利な面がある。ICZNは日本語版が翻訳され(これまでの全ての版?)、それも正式版とされている(正式版は英語、フランス語、日本語のみ)。このことは大きなアドバンテージになっていて、アジアの他国研究者の記載分類の論文査読などすると、命名規約の勝手な解釈が多いことに呆れる。きちんと読んで理解しろよ、といつも思うが(そして査読レポートにも強気にそう書く)、これは日本語に翻訳している分類学者の努力に感謝しなければいけないことだと今更ながら思った。ヨーロッパの研究者とのやり取りでも、向こうはラテン語をきちんと学んでいたりするので語源や語尾変化などのことでは太刀打ちできないことがあるが、少なくともICZNに書かれていることについては、対等か時々こちらの方が正しい認識であることすらある。
次に、生物の和名。和名と学名を併用することのメリット、そして存在に対して与えている(基本的に不可変の)和名の存在は、日本の生物学の普及にとても役立っているように思った。和名に関しては、考え方が異なる人もいるのでここではあまり深入りしないでおく。でも学名のようにきちんとした階層構造にするのではなく、不可変であることと学名と併用することというのが和名の正しい使い方だと思う。
最後に、日本の古い文献に眠っているだろうお宝のこと。英語で書かれた論文はサーキュレーションが高いので古い文献に出ていることもよく掘り起こされていると思うが、日本語で書かれた古い文献の中にはこれまで注目されてこなかったお宝が眠っているのではなかろうか。実はこの前、ある短い報告を書くのに文献探索を行っていたら、戦前に日本語で書かれたある報告を見つけることが出来た。観察は甘いが、私が知りたかったことがどの論文よりも丁寧に書かれていて驚かされた。こういったお宝を発掘できるのはやはり日本人だろうし、意外に多くのすごい発見が眠っているかもしれない。
日本語の科学が世界を変えるかどうかは判らないが、本書を読んで日本語を使うことの劣等感が少しは払拭された気分である。
余談だけど、STAPのことが書かれていなくてちょっとほっとした。