まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

カジノキヒメスカシバ

Yata, N., H. Yoshitomi & Y. Arita, 2023. Discovery of Tinthia cuprealis (Moore, 1877) (Lepidoptera, Sesiidae) in Shikoku, Japan. Tinea, 26(4): 392-399.

カジノキヒメスカシバTinthia cuprealis (Moore, 1877)を日本初記録。愛媛県松山市菅沢町で確認されている。ここ数年の懸案事項だった論文が出た。恩師と大先輩と共に論文化できたのは嬉しい。

きっかけは2019年に地元のアマチュア昆虫写真家の高橋さんが写真を撮影されたことからだった。写真が送られてきて、種名を教えて欲しいということだった。写真撮影後、個体は逃げてしまい標本は残っていないという。図鑑を見ても判らず、既知種ではないと思ったのでスカシバの研究をしている先輩の矢田さんに写真をお送りし見て貰ったところ、少なくとも日本未記録だということで有田先生を含めて検討に入った。有田先生はすぐに中国や台湾から知られるTinthia cuprealis (Moore, 1877)に近い種だろうと言われた。そしてその種のホストは有田先生自身が解明されておりカジノキなどのクワ科樹木だという。今思えば、やはり長年スカシバを研究されている有田先生の慧眼がなければ今回の発見は生まれなかっただろう。なにせ標本もないのに写真だけで今回の発見の結果を瞬時に言い当てたのだから。

私には標本を採るミッションが課せられた。高橋さんから撮影場所をお聞きすると松山市郊外のレインボーハイランドの駐車場とのこと。

2020年、コロナ禍で遠出ができないので何度かレインボーハイランドを訪れたがかすりもしなかった。有田先生がホストと想定したカジノキは撮影場所の近くに多いものの幹が加害されているような木はほとんど見つからない。冬季には県内広くカジノキを探してみたが、カジノキはどこにでも生えているもののスカシバが入っていそうな木はほとんどなく、どれも健全そうな幹だった。

2021年、有田先生からのプレッシャーは強くなる。カジノキではないのじゃないかと思い始めたころ、レインボーハイランドで目を付けていた1本のカジノキの幹にスカシバの蛹殻が出ているのを発見(駐車場から100mほどの距離)。やっぱりホストはカジノキだったのだ(有田先生をだいぶん疑っていた、すみません)。その次の日から早朝にカジノキ詣でをはじめる。そして数日後、また同じカジノキの幹に蛹殻を見つけ、周囲を見回すと下草に小さなスカシバの成虫が止まっている!まじか!緊張してネットを握り直している瞬間にその成虫はふっと消えてしまった。飛んだのかも判らないくらいふっと。ショックすぎてこの後の記憶が飛んでいる。この年はその周囲の木3本でも蛹殻を少数見つけたが、それっきりだった。

2022年、有田先生からのプレッシャーはさらに強くなる。木を切り倒せという指令が来たが悩んでいた。スカシバ採集では王道なのだ。愛蝶会の窪田さんに相談したところレインボーハイランドの方を紹介頂き、木を切る許可を頂いた。これで戦える。6月29日に1本の木をチェーンソーで伐採していただき研究室に持ち帰り、見事に羽化脱出してきた個体を得ることができたのだ。やはりTinthia cuprealisだった。

問題は本種が外来なのか在来なのか。発生地は雑木林の中なので最近入ったという感じではない。カジノキも古い外来種のようなので、このスカシバも古い時代に入った外来種なのではないかと思う。

 

2/22追記 コメントを頂いて書いておかねばと思い書く。見つかったのはレインボーハイランドで公園施設内ではあるが、発生しているカジノキは全て野良のもので植栽されたものではない。放置された伐採地に生えてきたもの。なので木を切る許可を頂く際もどうぞどうぞご自由にという感じではあったが、ご厚意でチェーンソーで切って頂いた。