まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

甲虫目から見た種数推定

Löbl, I. & R. A. B. Leschen (2014) Misinterpreting global species numbers: examples from Coleoptera. Systematic Entomology, 39: 2-6.
Löbl, I. (2014) Overestimation of molecular and modelling methods and underestimation of traditional taxonomy leads to real problems in assessing and handling of the world's biodiversity. Zootaxa, 3768 (4): 497-500.
どちらも伝統的な分類学が重要であるという論調のもの。著者はデオキノコ(Löbl)やヒラタムシ上科(Leschen)などを研究する甲虫目の大御所分類学者。二人とも純粋な分類学の論文を量産しつつ、教科書的書籍も多く手がけ、旧北区の甲虫カタログの作成にも関与している。特にLöblはスイスの博物館をリタイア後も現役と変わらないほどのアクティブさを維持して研究を続けている。
前の論文は”Catalogue of Life(COL)”のデータを基に地球上の生物種数の推定等を行ったCostello et al. (2012, 2013)への反論が主題。これらの論文を読んでいないものの、反論はもっともな気がする。確かにCOLは分類群によってデータがイマイチな気がしていた。しかしCOLのような生物多様性のデータベースを充実させ更新していくことは、分類学者の責務とも思えるので、それを怠っているところを棚に上げて話をするのはちょっと抵抗がある。いずれにせよ、今回の2論文は分類学者としてとても腑に落ちる内容であり、大御所がこのように頑張っていることは嬉しい。
面白かったこととして、Weeler(1995)はアメリカで昆虫分類学者の激減傾向について悲観的に書いたそうだが、ヨーロッパでは現在のところはそこまでではないという(Fontaine et al., 2012)。その理由としてアマチュア研究者やリタイア後のプロの研究者が多くアクティブに分類学の研究を支えているというのだ。その一方で、大学や博物館のプロの研究者は、ハイインパクトの研究に力を入れており、純粋な分類学的研究をあまり生産していないという側面もあるとのことである。アマチュア研究者の下支えという点で、日本もどちらかというとヨーロッパに似た状況のように思う。