まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

Contacyphon

Zwick, P., B. Klausnitzer & R. Ruta (2013) Contacyphon Gozis, 1886 removed from synonymy (Coleoptera: Scirtidae) to accommodate species so far combined with the invalid name, Cyphon Paykull, 1799. Entomologische Blatter und Coleoptera, 109: 337-353.
新年早々、目の覚めるような重要な論文が出てしまった。マルハナノミ科で最も種数が多く最も問題の大きいCyphon属に対して、Cyphonという名前を使用せず今後はContacyphonを使用すべきとなった。経緯は以下のとおり。
Cyphon Paykull, 1799にはタイプ種の問題があった。実は古参のElodes属と同じ種をタイプ種として記載されたものであり、その点では単純にCyphon属をElodes属の新参シノニムとして処理すべきであった。しかしCyphonはその後、Westwoodが別の種をタイプ種として定義を変えて使用され続け、こともあろうに、科内で最も多くの種(だいたい300種)を含む属となった。Pope(1976)はこのことを指摘し、ICZNに提訴しWestwoodの扱いを妥当としこれまでの扱いを踏襲することが良いのではないかと書いた。
実はGozis(1886)は、このCyphonに新名を与えていた。これがContacyphonであり、この名前はずっと忘れ去られていたのだ。Zwickら(2013)はこの名前を復活させ、いわゆるCyphonの元で記載されていた種を全てこちらに移した。
日本のCyphon属はYoshitomi(2005)が7種群を認めており、そのうちのcoarctatus種群とvariabilis種群のみがこのContacyphonに移され、残りは全て別の属(新属など)に移されている(これはKLが別論文を用意している)。つまり解体されて残りの2種群のみがこのContacyphonになったのだ。この措置はマルハナノミ科研究者の共通認識でCyphon属が多系統群であったことから妥当だと思う。
私はCyphonという名前を破棄すると利便性が損なわれると思い、この措置には反対であったが、措置自体は妥当なものである。選択の問題である。Cyphonという名前を使いICZNに提訴するか、古くに忘れ去られていた名前を復活させるか。確かに今のICZNではたとえ提訴したところで、すぐにOpinionが出るような状況に無いようなので、即効性を考えると後者の選択は間違いではないかも知れない。しかし科内ではかなり有名な属であるゆえ、Cyphonという名前を捨て去ることに抵抗を感じずにいられない。