まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

思ったよりも適応できていない外来種

安達修平・吉富博之(2014)愛媛県平野部におけるセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシの夏季没姿現象.Rostria, (56):1-7.

懸案だった論文がやっと出た。安達君の卒論。
本研究で扱ったアブラムシは、北米原産の外来種で、1980年代後半に入ってきたと考えられており、2000年に日本から報告された段階で、すでに広範囲に分布を拡大していた。ホストであるセイタカアワダチソウがすでに日本に定着・分布拡大していたので、アブラムシの分布拡大は容易だったことが想像できる。それ位、日本の気候に順応してすんなり入り込んでしまった外来種だと言える。
しかし予備調査では愛媛県の平野部ではなぜか、夏季に姿が消える「夏季没姿現象」が確認された。そして秋には再びコロニーが形成されたのだ。この現象を確認した時、我々はアキアカネやオオクロバエが”避暑”のために山に登ることが思い浮かんだ(厳密には個体の移動にはならないので同じではないが)。外来種のくせにそこまで日本の四季にまで適応しているのか!その仮説を検証すべく調査を行った。
松山市の平野部から山地にかけて春から冬にコロニーの動向を調査した。その結果、残念ながら我々の仮説は間違っており、単に夏季には平野部のコロニーが死滅して、秋に山地に残っていた個体群から平野部に分散してきていることを突き止めた(秋に山地から平地に移動分散することについては状況証拠的)。野外調査に並行して飼育実験もしたが、こちらは失敗したものの30℃条件下で飼育するとアブラムシはほとんど増えずに死滅した。
以上のことを纏めると、この外来アブラムシは日本に広く分布拡大し、いかにも適応しているように見えるが、実は意外と苦戦しているようだ。今回の調査からは断定は出来ないが、夏の暑さに適応しきれていないことが理由と思われる。猛暑日・熱帯夜にバテテいるアブラムシ、そんなところだ。
この研究結果をあるアブラムシ屋さんに話したところ、「そう言えば関東周辺では以前は多かったけど、最近はあまり見ない気がするなぁ」と言われた。また、佐賀大に移った安達君が佐賀県でも追試したところ、佐賀県でも同様の状況であることが判っている(日本昆虫学会第73回大会口頭発表)。
サンプリングが荒く、課題も山積で、まだまだ確かめたいことも多いのだが(例えばグンバイムシの影響等)、1年で纏めたにしてはよくやっていると思うし、これをきっかけに、各地で調査が進むと良いと思う。

***
Rostriaは日本半翅類学会の雑誌。マイナーだが、バックナンバーを見るとこれまでもアブラムシの生態に関する面白い論文がいくつも掲載されている。今号もカメムシ図鑑が出た影響かカメムシの分布ネタが多いのだが、アブラムシ関係の論文2本が巻頭から並び(もう1本は私の単著)、アブラムシ好きとしては嬉しい限り(カメムシも好きだけど)。本当は昆虫NSに投稿しようと思っていたが、こちらの方が早く出そうだったのでこちらに投稿。しかし出るまでに1年近く経ってしまった。