まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

イノウエナガゴミムシ

K Sasakawa (2020) A new species of ground beetle and a revised list of the
East Asian endemic subgenus Nialoe (s. lat.) (Coleoptera: Carabidae: Pterostichus). Oriental Insects, DOI: 10.1080/00305316.2020.1774438

イノウエナガゴミムシPterostichus (Nialoe) hekosanensis Sasakawa, 2020を福井県部子山から記載。”へこさん”って初めて聞いた。てっきり英彦山かと思った。

Nialoe亜属とされるものは、いくつかの亜属に細分化されるべきであるが、今のところごみ箱状態になっていて、とりあえずはそれら(Nialoe s.lat.)のリストを整理している。とても有用。

昆虫の推定種数

García-RobledoC, Kuprewicz EK, Baer CS, Clifton E, Hernández GG, Wagner DL. (2020) The Erwin equation of biodiversity: From little steps to quantum leaps in the discovery of tropical insect diversity. Biotropica. 00:1–8. https://doi.org/10.1111/btp.12811

偶然だと思うが、Erwinが亡くなった年に出た論文。Erwin(1982)は地球上の昆虫の推定種数を3千万種としたが、本当はどうなんだろう、という解説。そこまで多くはないだろうけど550万種という推定値は少なすぎるだろうという。Fig.1がなかなか面白くこの図だけでビール3本は飲めそうな感じ。

甲虫目の現在までに記載された種数は386500種で、最小推定種数は1700000種、最大推定種数は2100000種。

ハチ目・ハエ目の推定種数が少ないような気がする。

Dytiscoideaの科の系統

Chenyang Cai, Erik Tihelka, Davide Pisani, Philip C.J. Donoghue (2020) Data curation and modeling of compositional heterogeneity in insect phylogenomics: A case study of the phylogeny of Dytiscoidea (Coleoptera: Adephaga). Molecular Phylogenetics and Evolution, 147: 106782

Dytiscoidea内の科の系統関係は諸説あったが、これまでの分子データを「reduce compositional heterogeneity」と「adopting a site-heterogeneous mixture model」で再解析している。示された樹はDressler &Beutel (2010)が示した成虫頭部の形態形質を用いて行った系統解析の結果と樹形が類似していて(MeuridaeとNoteridaeが組むのが違うが)、まぁそんなものなのかな、という感想。それよりもHaliplidaeをDytiscoideaに入れないのが最近の方針なのかが気になった。

湿崖のMicrodytes

Sayali D. Sheth , Hemant V. Ghate , Neelesh Dahanukar & Jiří Hájek (2020):
The first hygropetric species of Microdytes J. Balfour-Browne, 1946 (Coleoptera: Dytiscidae) from the Western Ghats, India, Oriental Insects, DOI: 10.1080/00305316.2020.1787903

インドの湿崖から新種Microdytes hygropetricus Sheth & Hájek, sp. nov.が記載された。やや扁平。生息環境は垂直な湿った岩の表面。hygropetricな環境に生息するゲンゴロウは熱い。

Nosodendron

Jiří Háva (2020) Distributional notes on some Nosodendridae (Coleoptera) - XXII. A new species of Nosodendron (Nosodendron) from India. Natura Somogyiensis 35: 11-14.

インドからNosodendron (Nosodendron) nathani sp. nov.を記載。東洋区のNosodendron亜属の2種目となる。いま投稿中の原稿を加筆修正する案件・・・・

Zootaxa

Zootaxaにimpact factor(IF)が付かなかったことに抗議する署名

Zootaxaは2001年から出版を開始した雑誌。私の知り合いでは山田君か石川君が最初に投稿し(うろ覚え)、興味あるけど警戒していた私はすぐにどうだったかをメールで聞いた思い出がある。それでも海外誌だったので少し敷居が高いように思って、自分自身でこの雑誌に最初に投稿したのが2008年だった。今では学生のデビュー論文がZootaxaに掲載されるくらい動物分類学ではメジャーな雑誌になった。私もこれまで11本の論文が掲載されている。

発行5年目の2006年には既に年間1000本を超える論文を掲載し(Zhang 2006)、10年目では年間1600本・記載される全タクサの約20%を占める(Zhang 2011)ほどのまさにmega journalとなっている。最近ではその傾向がもっと顕著になっているようにも感じていた。そんな動物分類学のメジャー誌に対して、self citationが多いことを理由にIFが付かないというのは動物分類学を志す者にとっての死活問題となる。抗議は必要だと思う一方、難しい問題だと私は思っていた。

self citationが多い理由。圧倒的に掲載論文数が多く動物分類学の最もメジャーな雑誌であるからというのは間違いないだろう。私が考えた大きな理由の1つは、この分野の雑誌でIFが付いていないものが圧倒的に多いからだ、というもの。例えば、JJSEを例にとると、この雑誌もIFが付いていない。最新号を見ると、38本の原著論文が掲載されそこで引用された論文のうちZootaxaに掲載されたものは20本であった。自誌JJSEは18本で、Zootaxaが雑誌別では一番多く引用されているのだ。おそらく他誌でも同様で、こういったweb of science未掲載誌での引用がカウントされていればself citationも相対的に少なくなるのではないだろうか。

つまり、それらの雑誌もweb of scienceに掲載されるようにすればよいという話だ。しかし実際には難しい。web of scienceがClarivateに移る前に、JJSEでもIFを付けたいといろいろ調べたことがある。しかし学会誌運用のマンパワーと能力の不足から諦めた。弱小学会では困難で、どうしても付けたいのならどこかの出版社と業務委託提携するのが手っ取り早そうだが、経済的理由でこれも困難であった。別の問題としてIFが付くと他国、特に中国からの投稿が増えてパンクするということを聞いた。言葉は悪いが、箸にも棒にも掛からぬ荒い原稿が矢のように降ってくるというのだ。投稿された原稿をチクチク整理しDTPすら自前でやっている弱小誌には到底耐えられない。今回のZootaxaの混乱の影響で、AEMNPに投稿が殺到しているという話を聞いたので、まんざら間違いではないだろう。

ではどうしたら良いのだろうか?やはりIFは雑誌のランキングでしかないことを再認識し個人評価などには使わない、論文や個人の業績の評価は別の評価基準を使う、ということに尽きる気がする。

>(20200729追記)抗議の甲斐あり、方針が撤回されこれまで同様にIFが付くことになるようだ(ココ)。