まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

Podonychus!

Yoshitomi, H. and M. Hayashi, 2020. Unexpected discovery of Podonychus (Coleoptera: Elmidae, Elminae, Macronychini) in Kyushu, Japan. ZooKeys, 933: 107-123. doi: 10.3897/zookeys.933.48771

ヒョウタンヒメドロムシPodonychus gyobu Yoshitomi et Hayashi, 2020が九州から記載された。本属2種目の記録で、タイプ種であるPodonychus sagittarius Jäch & Kodada, 1997はインドネシアのシベルト島から知られるのみで赤道をまたいで隔離分布的な状態になっている。

2018年末、変わったヒメドロムシを採集したとの連絡を受けた。確かに変わっていたが、玄人好みな感じの小さな種だった。触角が6節。さっそくHandbook of Zoologyのヒメドロムシ科のところを見てみると触角の節数が減少するMacronychiniにあっても最小が7節とある。これはすごい発見かも。でも近縁の属すら判らず、ちょっと論文化に躊躇していた。林さんと共同研究することになったが、解剖して詳細に調べても執筆には躊躇していた。何か引っかかるところがある、そういう気持ちだった。2019年の2月頃までは悶々としていた。

ところでPodelmisという属がいる。これは族が違うし触角も全然違うのだが何だか雰囲気が似ている。他人の空似だとは思うが比較してみようと調べたところ、この属に名前が似たPodonychusという属がインドネシアで創設されていることに気付く。文献フォルダから別刷りを探し出して見たところビンゴ!触角も6節、こいつだった。なんとうちのコレクションにはパラタイプがあって、標本の比較もできた。区別するのが難しいくらいとってもよく似ていた。

f:id:yoshitomushi:20200519211121j:plainP. sagittariusのパラタイプ

 

正体が判ってからはサクサク執筆できた。2019年3月にはどうしても我慢できずに自分でも採集に行った。何とか採れたが生息場所がかなりピンポイントで丁寧に教えてもらっていなければ採れなかっただろう。近くの河川でも狙ったが採ることはできなかった。これを最初に採るなんて井上さんすごい。その時に幼虫も採れた。

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 この幼虫がとても変わっていて、すごくカッコいい。胸部と腹部の後縁にY字型の突起が並んでいる。こんな幼虫は知られていなかった。

2019年のミュージアムの前期の特別展で、こそっと展示してみた。あまり詳しく解説しなかったこともあり、特に注目されることはなかった。未記載種を展示するのってなんだか難しい。

今回の論文では系統関係には言及できていない。成虫・幼虫の形態からMacronychiniの中でもかなり特殊な気がする。分子系統解析されるのが楽しみ。

さて、なんでインドネシアのシベルト島と九州に隔離的に分布しているのだろう。当初、そういった他の事例を探そうと論文探索をしていて、共同研究者の林さんも同じことを考えていろいろ論文を送ってくれた。そもそもシベルト島も生物地理的に特異なところのようで、そんなところと九州が結びつくというのはあまり考えつかない。集めた論文を読んでもピンとこなかった。実際に自分で採集してみて思ったこととして、本種の生息微環境がちょっと変わっていた。環境自体は小さな河川のツルヨシの根が張り出したところなのだが、そんなところは各所にあって、でも本種が生息するところはその中でもすごく限られていた。文章では表せないような微環境の要求がうるさくて、他の地域では未だ確認されていないだけなのでは?そう考えた。このことは査読者からもいろいろ突っ込まれた。きっと中国やインドシナからは見つかるんじゃないかなと思っている。

それにしても九州はPodonychusも見つかるしSinonychusも見つかるし、ヒメドロムシ的にすごいところだ。Ancyronyxとか見つからないかな。

今回の論文はけっこう思い入れあるものになった。図のプレートがびしっと決まってレイアウトされて、この点もすごく嬉しかった。

プレスリリース

この論文でお世話になった方々どうもありがとうございました。