まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

フタホシドクガの幼虫

 懸案の論文が出版になった。フタホシドクガの幼虫の食樹と幼虫形態を解明させましたよ、という小ネタだが、とても面白い発見。

面白い1点目は、本種の幼虫が寄生性植物のヤドリギを食樹としている点。日本でヤドリギ専食の鱗翅目昆虫はこれが初発見。本種と同属でとても近縁なオーストラリアの種も広義のヤドリギ(日本のヤドリギとは科が違う)を食していることが知られるので、系統と関係なく植物の生態的特性に特化したグループなのだろう。

そして面白いもう1点は、本種が有毒性の種であること。日本に産するドクガ科の種で有毒なものは10種が知られ、衛生害虫なので古くからよく研究されてきていた。しかし10種のうち2種は幼虫とその食樹が解明されていなかった。そのうちの1種が今回のフタホシドクガだったわけだ。なので今回の発見は衛生学的にも重要な発見になると思う。ちなみに残る1種マガリキドクガは珍しい種なのだが(フタホシドクガもやや珍しい種)、フタホシドクガと同属なので、同じようにヤドリギに近い仲間を食樹としているのは間違いないと思う。やっぱり寄生性植物かな。

 

今回の発見のきっかけは、2014年4月に村上君と稲岡君に手伝ってもらい石手川ヤドリギ調査を行ったことだ。この時に、カイガラムシを数種と正体不明の毛虫を10頭ほど採集した。カイガラムシは広食性の種で田中さんと一緒に発表した。正体不明の毛虫のほうは、種名が判らず飼育していたが飼育に失敗していた。おそらくはドクガ科であろうとは思うけど、それ以上のことは分からなかった。新種の可能性が高いのではないかと思っていた。それからもヤドリギから幼虫をとってきては飼育して失敗していた。

2017年になり事態が動いた。今回の共著者の尾崎さんも千葉県でこの幼虫を発見したのだ。彼は植物屋でヤドリギの調査をしている際に見つけたとのこと。で、偶然にこのブログに行き当たり斉藤明子さんを経由して連絡がきた。で、並行して調査していたのだが、彼が飼育していた幼虫が何とか1頭成虫になった。それは新種ではなくフタホシドクガであった。尾崎さんから指摘されて後で納得したのだが、本種はかなり酷くかぶれる。私も2014年から飼育した際に蕁麻疹ではないけど腕にぶつぶつができて困っていたのだ(ヤドリギは葉を折るとねばねばの液が出るのでこれでかぶれたのかもなどとも思っていた)。冷静に考えればこの飼育していた幼虫が疑われるし、ドクガの有毒種で幼虫が未解明なものと調べていけば状況証拠でフタホシドクガに早く行きついたのだろうに。

幼虫越冬で小さな集団でヤドリギ上にいること、そんなにバリバリ食べないのに大型の幼虫であることなど、まだまだ面白い生態を持っていそうな感じ。また、衛生害虫としてどの程度気を付けるべきか(私の経験ではドクガ・チャドクガレベルでヤバイ気がする)、などいろいろ調べるべきことが残っている。今回の発見をきっかけにそのあたりも調査されると嬉しい。

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