まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

簡便な解剖法(某原稿のボツ版)

昆虫類の正確な種の同定を行うために、特に雄の交尾器を確認することが必要な場面は多い。交尾器の形態が多様なグループでは、外部形態ではどれも似通ったどんぐりの背比べ状態だったものが、交尾器を見るとすんなり種の同定ができるケースも多い。外見とは違った世界が、交尾器を調べると広がってくる。とはいえ、小型の昆虫類の交尾器の解剖・観察は一般の人にはハードルが高い。ここでは簡便な方法を紹介する。詳しくは、中村(2005)や佐々治(1989)の解説、および熊澤(2016)と安永ほか(2018)の本を参考にして欲しい。

必要最小限な道具として、実態顕微鏡とピンセットがあり、顕微鏡は簡易なものでも構わないがピンセットは先の尖った使い慣れたものを2本は用意する。そして液体の衣類用酸素系漂白剤もしくは入歯洗浄剤を入れた小瓶に用意する。お湯で柔らかくした標本や乾燥する前の標本を、そのままその液中にいれ室温で2~3日入れておく(時間は標本の状態や室温による;手早く済ませたい場合は小瓶を湯煎する)。すると筋肉や脂肪が溶かされ交尾器が観察しやすくなり、ちょっと腹部を押すだけで腹部端から交尾器が飛び出し観察できる状態になることもある。ピンセットで腹部を外し腹部背板の膜質部を引き裂き交尾器を取り出すか腹部の末端から交尾器をつまみ出せば交尾器の観察が行える。解剖し観察が終わった交尾器は、乾燥標本の場合は台紙に膠や糊などで貼り付けて標本と一緒に保管しておくと良い。

交尾器の解剖・観察を行うためのコツを2つ挙げる。1つは“慣れ”。何度も解剖・観察することにより、的確に短時間で行うことができるようになってくる。2つは“いい加減さ”。解剖の作業は丁寧に行う必要があるが、標本を壊しても良いや、というぐらいの軽い気持ちで解剖・観察したほうがうまくいくことが多い。

 

<引用>

中村剛之(2005)アルカリ処理による昆虫交尾器の観察(I).インセクト,56(1):10-14.

佐々治寛之(1989)小甲虫の解剖とプレパラートの作り方.昆虫と自然,24(1):16-18.

熊澤辰徳(2016)趣味からはじめる昆虫学.160pp., オーム社

安永智秀・前原諭・石川忠・高井幹夫(2018)カメムシ博士入門.212 pp., 全国農村教育協会.