まるはなのみのみ

日記です。ときどき意見や感想。

論文賞

Zaitzeviaria属は、日本から4種、どの種も1ミリ前後と大変小さな体をしているが色彩や体型で容易に識別できると、私を含めヒメドロムシ屋は考えていた。しかしZ. ovataだけは変異が多く、九州には複数種いるという報告も出ていた(仮にオバータ群と呼ぶ)。
林さんと共同研究者の分子系統解析の結果、島根のZ. ovataも何だか変だということが判ってきた。そして林さんが詳細に調べてみると真のZ. ovataよりもややほっそりとした別種が混じっていることに気付き、ゲニタリアも異なっていることが判った。内袋の形状も異なっていた。逐次メールで報告を受けていた私は、すごいものを見つけたな、と思っていた。そしてオバータ群の闇の深さを思うと、何だか暗鬱とした気持ちにもなった。
2014年の秋に林さんから共同研究のお誘いを受けた。ちょっと悩んだが、属のレビジョンとすることや採集データの示し方を工夫することなどの条件をのんでいただき、共同研究がスタートした。
まず懸案の種(自分でも採集していた)と既知種を自分でも解剖して見てみると、この新種はオバータ群ではなくbrevisの変わったものであることがはっきりした。判ってしまえばなんということはないのだが、面白いと思った。
林さんは全体と幼虫記載、内袋のところ、私は分類学的なパートを担当した訳だが、ちょうど編集作業で忙しい時期と重なってしまい、自分の担当パートが遅れに遅れてしまった。本当に申し訳ない。でも何とか間に合い、良い論文に仕上がったと思う。細かいこだわり(検視標本をabbreviationにしたりそのデータをエクセルで公開したりマイナーで誰も知らないような重要論文を引用したり)は自己満足でしかないが、私の色が出せたと思う。あと、対馬から知られるZ. kuriharaiは最近韓国から記載された種に類似しmedian lobeの先端が広がっているのも新たな発見だった(原記載ではそうなっていない;おそらく壊れた個体を観察したのだろう、私もそのような状態の標本も観察したので)。
論文は纏まったものになったが、オバータ群の再検討は棚上げにしている。この大きな闇を解決させるのが次のミッションだ。